文献 : 聴力障害

飛行機

Noise in helicopters and its effect on auditory damage in pilots

Bajcetić D, Vojnosanit Pregl. 1991 Mar-Apr;48(2):107-10. Serbian.

3種類のヘリコプターの操縦室内において、46人のパイロットの聴力に対する騒音の影響を評価した。すべての型のヘリコプター内の騒音レベルは非常に高い値であり、有害な影響を及ぼすものであったにも関わらず、統計学的な聴力障害の有意な増加はみられなかった。パイロットらが通信用のヘルメット兼ヘッドホンを着用していることを考えると、同時に環境騒音の有害な影響からパイロット達を防護し、聴力障害は軽度でごく僅かな比率だったのかもしれない。

Protection for noise-induced hearing loss using active hearing protection systems

Matschke RG, Laryngorhinootologie. 1991 Nov;70(11):586-93. German.

いまでは騒音性難聴は、ドイツ連邦共和国において最も頻度の多い職業性疾患ではないが、技術化・産業化した世界から生み出された騒音による公害は減ってはいない。それどころか、余暇の騒音の影響が増加することにより、状況は悪化している。職業性の聴力損失を避けるために、保険会社によって公布された騒音障害防止規約(Noise Injury Prevention Code)は、環境騒音が85dBを超える場所では耳栓を着用するといった、個人用防音保護具を着用することを求めた。しかし、こうした防音保護具の着用が明らかな弊害をもたらす職場も存在する。無線通信における聴力障害の可能性が、その理由の1つである。例えば、軍用機のコックピット内のばく露騒音測定では、通常飛行中のほとんどすべての時間で環境騒音が90dBAを超えていた。騒音環境においても無線通信を理解できるように、ヘッドホンの音量をエンジンによる騒音以上に上げなければならない。耳栓の使用は、その意義を限定させてしまう。聴力が正常なパイロットはコミュニケーションエラーがほとんどないことに対して、騒音性難聴を有しているパイロットは聴力障害の程度に比例した明らかなコミュニケーションエラーを示した。情報伝達能力が大幅に低下し、無線通信の信頼性を落としてしまう可能性がある。航空の安全を守るためには、避けることのできない無線通信においてコミュニケーションエラーなしに環境騒音を低減することのできる騒音保護システムが求められる。様々な方式で電子的補償を行う最近の能動型騒音消去システム(ANC)は、騒音性難聴に対して、効果的な防護をもたらす。

Communication and noise. Speech intelligibility of airplane pilots with and without active noise compensation

Matschke RG, HNO. 1994 Aug;42(8):499-504. German.

飛行中のドイツ連邦海軍のパイロットに対して、騒音ばく露測定を行った。通常飛行時の環境騒音レベルは、90dB以上で保たれていた。この騒音強度では、騒音による聴力障害を予防するために防音保護具が必要となる。このような騒音環境にも関わらず、無線通信(ATC:航空管制官)を理解することができるように、ヘッドホンの音量はエンジンの騒音以上の大きさにあげられている。個人用防音保護具は管制官とのコミュニケーションに影響を与えるため、ヘッドセットや飛行用ヘルメットに加えて耳栓を使用することの価値は限定されてしまう。聴力が正常なパイロットの語音明瞭度はわずかしか影響されないのに対して、既に高周波数帯の聴力損失のあるパイロットは、聴力障害の程度に比例して語音明瞭度に大きな影響を示した。情報伝達能力は大幅に低下し、徐々に航空交通の安全にも影響する可能性がある。”Anti-noise(騒音防止)”の原則で使用される能動型騒音補償装置(Active Noise Compensation device : ANC)の発達により、このジレンマは解決するかもしれない。ANCシステムの有効性、語音明瞭度および語音聴力検査への影響を評価するために、ヘリコプターの模擬飛行中にドイツの標準的な検査が実施された。その結果、特に騒音による聴力損失のあるパイロットにおいて、コミュニケーションに有益な影響が示された。これは、定年前の熟練者たちの障害を予防するために役立つかもしれない。

Balancing speech intelligibility versus sound exposure in selection of personal hearing protection equipment for Chinook aircrews.

Van Wijngaarden SJ, Aviat Space Environ Med. 2001 Nov;72(11):1037-44.

【背景】航空機乗組員は、軍用機内においてしばしば高い環境騒音にばく露される。このような騒音への長時間のばく露により聴力障害が生じる可能性があり、適切な防音保護具の選択が重要である。また、防音保護具は語音明瞭度にも影響する。語音明瞭度と防音保護具は相反する要件であるため、妥協点を検討する必要がある。RNLAF(ヘリコプター)Chinook乗組員における個人用保護具の選択が、実際の例である。【方法】乗組員のヘルメットと耳栓によって与えられた騒音の低減は、標準化された方法で測定され、騒音ばく露を算出するために使用された。語音明瞭度の客観的予測値は、音声伝達指数(Speech Transmission Index)法を用いて算出された。28名の熟練の乗組員について、主観的な好みが本調査を通じて調べられた。【結果】RNLAF標準ヘルメットに加えて耳栓を使用した場合、騒音ばく露の減衰は著明であった。低減衰型の代わりに高減衰型の耳栓を使用することにより、語音明瞭度の大きな減衰を犠牲にし、騒音減衰効果がわずかに追加された。従って、”light(減衰効果の強くないタイプ)”な耳栓の使用が好ましい。性能の向上は、小型イヤホンを組み込んだ耳栓である通信用耳栓(Communications Earplugs)の使用によってもたらされる。嗜好調査の結果は、客観的計測結果とよく相関していた。【結論】RNLAF Chinookの事例では、最善の解決法は標準ヘルメットと組み合わせて通信用耳栓を使用することであった。Chinookの事例は、防音保護具と語音明瞭度は関連した問題として扱われるべきであると明らかに示している。

Improved communications and hearing protection in helmet systems: the communications earplug.

Powell JA, Mil Med. 2003 Jun;168(6):431-6.

防音保護具と保護基準の遵守の大幅な進歩があるにもかかわらず、軍人は、多くの戦闘やその支援活動の中でいまだ騒音性難聴になりやすい状態である。1986年以降、陸軍は騒音性難聴症例の発生を約15%減らしているが、2000年度の報告では、聴力検査で有意な閾値変化が認められたものが27.5%増加している。1998年の陸軍による騒音性難聴の補償は、唯一1億8千万ドルを超えている。このように情報伝達や聴覚保護は、陸軍の活動に従事する人にとって重要な問題である。航空機・車両・武器は、現在の聴覚保全基準で定められた限度を超えたレベルの騒音を発生させる。長年に渡って改善されてきた多くのヘルメットの性能は、語音明瞭度に関しては不十分なままである。さらに、これらのヘルメットは適切な聴覚保護を提供していない。耳栓と一体になった高性能イヤホンから成る通信用耳栓は、必要な保護能力を提供する。15g以下の重量であり、長時間の使用においても快適である。熟練の陸軍飛行士や乗組員に広く受けいれられるものだと考える。

民間航空機運航乗員の聴力.

桐谷伸彦,耳鼻咽喉科展望, 1991. 34(3): 261-287.

操縦室内騒音ならびに客室内騒音の分析を行ったが、いずれも高率に聴力障害を起こし得るレベルではなかった。無線交信音の分析と、これを聴取する際に使用するヘッドセットの特性測定を行ったが、交信音の影響は、聴取状態による個人差が大きいと考えられた。航空機乗組員1937人の聴力検査データを分析し、聴力レベルC5-dipの頻度のいずれも有意な左右差が認められなかったため、聴力障害の発現には、無線交信音以外の要因の関与が考えられた。航空機乗組員の聴力障害の発現には、騒音に対する個人の受傷性の差が大きいと考えられた。

航空自衛隊ジェット双発機の操縦室騒音評価と会話妨害度評価値の検討.

西修二,航空医学実験隊報告, 2006. 46(3): 77-90.

双発ジェット輸送機及び双発ジェット多用途機の飛行中の操縦室の機内騒音環境を調査し、難聴防止と合わせて会話妨害度の騒音単位の再評価を行った。通信機器等の故障時には肉声による意志疎通が必要となることから、操縦室内の会話妨害度を検討した。騒音ばく露量については、双発ジェット輸送機の場合、約4時間40分を超えて飛行を繰り返す場合に、防音保護具が必要になるが、現状では密閉型ヘッドセットを使用しているため、問題はない。また、双発ジェット多用途機の場合、ばく露許容時間が8時間以上であり、現状のオープンタイプのヘッドセットでも問題はない。