文献 : 聴力障害

コールセンター

Assessment of the noise exposure of call centre operators.

Patel JA, Ann Occup Hyg. 2002 Nov;46(8):653-61.

現在、コールセンターは、金融業・テクノロジー・公共団体のような公益企業の日常業務で大きな役割を果たしている。2002年には、コールセンターで働くイギリス人の割合は2.3%に達すると考えられている。しかし、地方自治体の執行官、組合、ボランティア団体、使用者と労働者は、この新しく発展してきた産業に特有である健康・安全へのハザードの存在について懸念を示している。マスコミで取り上げられている潜在的なハザードの1つが、ヘッドセットの使用による聴力障害である。英国安全衛生庁(HSE)が出資しているプロジェクトにおいて、金融業・通信販売・電気通信事業等の150のコールセンター作業者の騒音ばく露が評価された。その結果、これらのコールセンター作業者の日常の個人騒音ばく露は、1989年職場騒音規則で定められている対策基準である85dBAを超えることはなさそうであった。つまり、聴力障害のリスクは、極めて低いということである。ファックス音・保留音・携帯電話からの高い音のような、より強い騒音レベルへのばく露の可能性はあるが、これらの事象は、時間が短いことが多く、作業者の全体的な騒音ばく露には、有意な影響はなさそうである。ヘッドセットからの予期せぬ強い騒音へのばく露を抑える実用的な方法として、英国貿易産業省の仕様書85/013の要求事項にあった音響外傷防止機能が組み込まれたヘッドセットを確保する方法がある。英国では、このリミッターが、118dB以上のどのような騒音もヘッドセットから伝達されないように守っている。作業者たちは、使用するヘッドセットや電話機についての教育を定期的に受けるべきである。この教育には、ヘッドセット・音量制御機能の正しい使用方法、いつ・どのようにヘッドセットを手入れし、管理するか等が含まれる必要がある。

Acoustic shock injury (ASI).

Westcott M, Acta Otolaryngol Suppl. 2006 Dec;(556):54-8. Review.

【結論】ASI症状の潜在的な重症度と持続性は、臨床的・法医学的にも重要な意味をもっている。世界中でのコールセンターの急成長に伴い、耳鳴や聴覚過敏の治療を行う専門家たちは、クライアントの中にASI症状の集団発生に遭遇する頻度が増えそうである。

【背景】 突然の思いがけない大きな音へのばく露の結果生じるASIには、特有かつ共通した神経生理学的・心理学的な症状を起こすことが観察される。これらには、耳痛、耳鳴、聴覚過敏/音声恐怖症、めまいの他に、耳の周囲の無感覚や灼熱感などのあまり見られない症状を含んでいる。トラウマ、不安、抑うつ等のさまざまな情動反応があらわれることもある。電話用のヘッドセットや送受信器を使用するコールセンタースタッフは、耳が密閉された状態で、電話線から不規則に伝達される突然の思いがけない大きな音へのばく露の可能性が高いため、ASIの被害を受けやすい。

【考察】この論文は、音響ばく露を受けた123例のうち103名の研究をまとめたものであり、ASI(特にTTTS:鼓膜張筋過緊張症)の神経生理学的メカニズムを提唱するものである。TTTSを理解することは、耳鳴や聴覚過敏の神経生理学的・心理学的進行、強い心的外傷や不安との関連を知るきっかけとなる可能性がある。

【リハビリテーション】ASIリハビリテーションについて、議論されている。

Acoustic shock.

McFerran DJ, J Laryngol Otol. 2007 Apr;121(4):301-5. Epub 2007 Feb 19. Review.

近年、アコースティック・ショックは、電話送受信器からの不意に、激しく、予期せぬ音声刺激によって引き起こされる病型として認識され、耳痛、聴力の変化、耳閉塞感、平衡異常、耳鳴、騒音に対する嫌悪・恐れ、不安、気持の落ち込みなどを伴う症候群として報告されている。症状はトリガーとなる音声ばく露の直後からはじまり、短時間あるいは長時間持続する。長く持続する場合は、その状態が顕著な障害をもたらすことがある。提唱されている機序は、鼓膜張筋の関与、中枢聴覚伝導路の過興奮性、不安や興奮の高まった状態が事前にあること、などである。公式な治療手順は提唱されていないが、近年の耳鳴や聴覚過敏に対する治療技術の潜在的有用性が熟考されている。コールセンターで多くのイギリス人労働者が働いていることを考えると、これは重要な臨床的意義を有している。

An ergonomic evaluation of a call center performed by disabled agents.

Chi CF, Percept Mot Skills. 2008 Aug;107(1):55-64.

コンピュータ電話システムを使用したコールセンターに勤務する27名の身体障害者の潜在的な人間工学的ハザードを、行動様式と作業関連疾患の関係性の観点から評価した。仕事に関する記述、300回の実作業データ、作業空間のデザインに関する質問、体の各部位の不快度、自覚的ストレス、潜在的な業務上のストレス要因、環境要因の実測データ、などを収集した。分析の結果、対象者は長時間の静的な座位姿勢、反復動作、首を曲げ背中に支えのない姿勢、筋骨格系の不快症状の出現などが示された。目の疲れ(85.2%)、耳の不快感(66.7%)、筋骨格系の不快症状(59.3%)が、長時間労働の後に最も多く訴えられた症状だった。27人中17人が、仕事のストレスを高い、あるいは、とても高いと回答しており、標準作業時間内に面倒な顧客の対応を行ったり、顧客のニーズを満たしたりすることが主なストレス要因であると回答していた。さらに、職場の環境騒音、イヤホンの使用、ベテラン職員の聴力低下の可能性、研修プログラム、目の疲れ・筋骨格系の症状・精神的ストレスに対する適切な対処方法などが検討されるべきである。